医師になろうとしたきっかけ

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私は子どもの頃に「からだのひみつ」という学研マンガが好きで、少しずつ人の体や生命現象に関して興味を持つようになりました。中学生の時に、当時九州大学で日本で初めて心療内科を標榜した池見酉次郎先生のご著書を読みました。心身相関に関する本で、その中で「漆かぶれを起こす人に漆だと伝えて水を塗るとかぶれ、水だと伝えて漆を塗るとかぶれない」という研究が紹介されていました。すっかり心身相関のおもしろさに惹きつけられ、心と体を学べる医学部への進学を志しました。

産婦人科医を専門に選んだ理由

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卒後の進路を決める際、心と体を専門とする精神科、婦人科、基礎医学のどれに進むか迷いました。そんな私が選んだ先は、教授が勧める東京大学の産婦人科医局でした。産婦人科は女性の一生に関わる科であり、内科的な部分も外科的な部分もあり、そして他の科にはない妊娠出産を扱うことに魅力を感じたからです。生命の誕生であるお産は、何度立ち会っても朗らかな気持ちになります。産婦人科は、「おめでとう」と言える唯一の診療科です。

今までの婦人科医としてのエピソード

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①患者さんの心を解きほぐすことを学んだ研修医時代

研修医として、妊娠糖尿病の妊婦さんを担当していた時の話です。この患者さんは妊娠糖尿病になられたことで非常にネガティブになってしまい、頑なに心を閉ざして、誰とも喋ろうとはしませんでした。研修医の自分に何ができるのか、必死で考えた末、時間を見つけては妊婦さんのお部屋に行くことから始めました。少しでも心を開いてくれればと思い、当時は冷蔵庫くらいの大きさのあったエコーを毎日運び、お腹の赤ちゃんの画像を見てもらうようにしました。それを続けたことで、最初は何も話してもらえなかった状況から、徐々に患者さんが笑顔を見せ、口をきいてくれるようになりました。

その後、無事赤ちゃんを出産されました。産後1ヶ月検診で「宮田先生がいなければ、私、死んでいたと思う」と言われました。私が行ったことは、ただ重たいエコーを毎日患者さんの元に運ぶだけでしたが、患者さんの心寄り添い、同じ波長でいることが、患者さんの心を解きほぐす上で最も大切だと、身に染みて知りました。

②全力で患者さんを助けた経験

私が個人産院に当直として入っていた時に、お産を終えた妊婦さんに、子宮が反転し大量出血が起こる子宮内反症(内反)が起きました。個人産院での当直だったため、医師は私一人で、ほかには助産師と1人スタッフ2,3人がいるだけの状況でした。

まず止血のために患者さんの膣内から子宮まで腕を入れて、子宮を強く圧迫しました。内反は運よく元に戻りましたが出血が一向に止まらず、手で子宮を抑え込んで何とか出血を抑えている状態でした。そうしている間にも、患者さんの顔はみるみる蒼白になり、吐き気を訴え、嘔吐し始めました。このままでは患者さんが出血多量で死んでしまうと思い、両手で子宮を抑えたまま輸血、救急車、搬送先確保の連絡をお願いし、必死で止血しながら、患者さんを励ましました。その後、搬送先が見つかり大病院に搬送され、妊婦さんは助かりました。

手足に口、知識と経験、人脈、そしてスタッフの協力、持てるもの全てを総動員して患者さんを助けた壮絶な経験でした。

産婦人科医としてのメッセージ

妊婦を支える旦那さんはどうすべきですか?

妊娠中の女性のパートナーの方から、男性はどのようにサポートすべきかわからず、自分が無力のように感じます、という質問をよく受けます。個人的な意見ですが、パートナーの方はただ一緒にいて、同じ思いを共有するだけでサポートになっていると思います。アドバイスする必要はなく、女性の話をひたすら聞いて、受け入れてあげることが大切ではないでしょうか。

宮田先生が大事にしていること

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病気を治療することに留まらず、患者さんの心や日常生活のサポートするようにしています。つまり同じ症状でも、患者さんによって治療内容が異なることもあります。例えば生理不順の患者さんの場合、患者さんがその症状でどのくらい悩んでいるのか、薬を使うことをどう捉えているか、妊娠・出産の予定があるのかなど、その患者さんにとってどうすることが最善なのかを常に考えて方針を決めるようにしています。

患者さんにはそれぞれの人生があります。私は、本人が望む方向に進むことができるようサポートすることも大事だと思っています。もちろん技術や知識が十分にあることが前提になりますが、私は身体的治療にとどまらず、心や生活を含めた全人的なケアができる医師でありたいと思っています。

最後に

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「妊娠・出産だけではなく、女性の一生に寄り添えないだろうか」。そんな思いから立ち上げたのがなでしこ女性診療所です。「女性患者さんと、笑顔を共有したい」、それが私たちの願いです。

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