子供と大人の歯科矯正の違い

成長を利用できる

子供と大人の最も大きな違いは、身体が成長しているという点です。
矯正歯科治療では、歯の幅の総計と顎の大きさのバランスが大切です。もし、顎の大きさの方が小さい場合、歯を抜いて幅の総計とバランスをとらなければならないこともあります。

子供の場合は、顎の骨も成長に伴って大きくなっています。
顎の骨がどのようにして成長拡大していくか、歯がどのようにして生えていくのかというのは、予測できます。そこで、歯が生える順序に従って顎の骨の大きさや、成長の方向をコントロールすることによって、歯を抜かずに歯並びを整えることができるのです。これは大人にはできない子供だけの利点です。

筋肉の働きを利用できる

歯の位置は、舌・頬・唇といった口を取り囲む筋肉のバランスによって定まっています。
口で呼吸する、舌を前に出すといった癖があると、歯並びはすぐに悪くなってしまいます。したがって、矯正歯科治療をするためには、こういった筋肉の癖を直しておかなければなりません。大人になってから筋肉の癖を直すのは至難で、やはり子供のときの方が直しやすいといえます。

また、成長途上の顎の骨に、筋肉の働きを組み合わせることで、歯の並びだけでなく顎の骨格までも改善することができます。

後戻りを起こしにくい

矯正歯科治療が終わった後に、整っていた歯並びが再び悪くなってしまうことを後戻りといいます。
子供の頃から矯正歯科治療をしていると、歯の位置と顎の骨のバランスがよくなったり、歯並びに影響するいろいろな癖を治したりすることができます。
そのため、大人になってからする矯正歯科治療と比べて、後戻りを起こしにくいといわれています。

矯正治療の流れ

子供の矯正治療の流れについてみていきましょう。

カウンセリング

歯並びが悪いといっても、どのような点が特に気になっているかという受け取り方は十人十色です。それにより、治療方法の種類や期間、費用なども人によって異なります。
まずは、気になっている点、どのような感じに治したいのか、日常生活上の注意点にはどのようなことがあるのかなど、矯正歯科治療はカウンセリングから始まります。

検査

検査は、問診から行ないます。口呼吸や舌癖などの歯並びに悪影響を及ぼす癖はないか、矯正歯科治療に影響するような病気はないか、家族内で歯並びはどんな感じなのかなどを聞きます。
次に、レントゲン写真を撮影します。生えている歯の状態、永久歯の数、埋もれたままになっている歯はないか、嚢胞(のうほう)と呼ばれる出来物がないか、顎の骨の形はどうなっているかなど確認します。
そして、歯型をとり、現在の歯の並びも記録します。もちろん、歯だけでなく顔つきも大切なので、いろいろな方向から写真も撮影します。
また、虫歯があると矯正歯科治療ができなくなるので、治療していない虫歯がないか、歯磨きはきちんとできているかも検査します。

説明

検査の結果を本人だけでなく家族も含めて詳しく説明します。
説明内容は現時点での問題点、矯正歯科治療の適応があるのか、どのような方法が適しているのか、矯正歯科治療中の日常生活における指導などです。
矯正歯科治療の方法を複数提示することができれば、患者さんの選択肢を増やすことができるので好ましいのですが、症例によっては難しいこともあります。

矯正装置の装着

説明に対して了解を得られたら、矯正歯科治療の開始です。
矯正装置が完成したら、装着し、その後は1〜2ヶ月おきに通院して歯並びを治していくことになります。

子供の矯正治療の種類

子供の矯正治療に使われる方法について紹介します。

拡大装置

子供の身体は成長途上にあるので、顎の骨も成長につれてどんどん大きくなっていきます。
拡大装置とは、顎の骨が成長するときに、顎の骨が大きくなりやすいように成長を促進したり、歯並びがきれいになるように成長の方向を調整したりする装置です。

拡大装置には、急速拡大装置と緩徐拡大装置の2種類があります。
急速拡大装置は固定式の拡大装置です。取り外しができないので違和感が大きいですが、顎の骨を拡大する効果が高いです。
一方、緩徐拡大装置は取り外しタイプの拡大装置です。取り外し式なので、外すことで歯磨きがしやすくなる利点がある一方、きちんとつけていないと効果が現れないという欠点もあります。

リップバンパー

リップバンパーは、唇(リップ)の力を使って歯並びをきれいにする矯正装置です。
6歳臼歯にチューブがついた金属製の環を装着します。このチューブには歯のならびに沿ったU時型の太いワイヤーが差し込まれます。U字型のワイヤーの前側には唇と接触するようにコンポジットレジンとよばれるプラスチックが厚めに盛りつけてあります。このおかげで、歯と唇が直接接触しなくなるので、唇の力によって歯並びが歪んでしまうことを防ぎます。
また、唇がリップバンパーを前から後ろ方向に押すので、6歳臼歯が少し後ろに下がります。この効果によって、歯の並ぶスペースを拡大し、歯並びをよくすることができます。

トゥースポジショナー

トゥースポジショナーは、本来は矯正歯科治療が終了した後に、歯が後戻りをしないように装着するマウスピースのような矯正装置です。
後戻り防止に使われるのですが、軽度の歯並びの修正効果もあるので、矯正歯科治療に使われることもあります。

機能的顎矯正装置

機能的顎矯正装置は別名アクチバトール、FKOとも呼ばれます。下顎前突、つまり受け口の治療に使われます。上下顎一体型の大きめのマウスピースのような形状をしています。
上顎前歯を前へ出し、下顎前歯を後ろに下げることで、歯並びをきれいにします。

咬合斜面版

上顎前歯の裏側を分厚く作ったマウスピースのような形をしています。分厚くした上顎前歯の裏側に、下顎の前歯が接触することで、歯の位置を動かしていきます。
上顎前突とよばれる上顎の前歯が前に出過ぎた状態や、下顎が後方に下がり過ぎた状態の治療に使われます。

歯科矯正の期間

成人の場合、矯正歯科治療の期間はおおむね2〜3年ほどです。
しかし、子供の場合、成長が終わるまでは継続しますので、成人よりも長くなってしまいます。トータルの期間は開始時期によって変わりますが、子供の矯正歯科治療の完了は、おおむね中学生から高校生くらいの年齢です。

歯科矯正の費用

子供の矯正歯科治療も大人のものと同じく、保険診療の適応を受けていません。ですので、すべて自費診療になります。
治療費は各歯科医院が独自に定めていますので、詳しいことはかかりつけの歯科医院、または矯正歯科治療を受けようと思っている矯正歯科で相談してください。

まとめ

矯正歯科治療は子供の頃から受けるのがおすすめです。大人になってからするよりも治療期間は長くなってしまいますが、抜歯の必要がなくなる、後戻りが起こりにくいなどのメリットがあります。
もし、お子さんの歯並びに不安があれば、歯科医院で早めに相談した方がいいでしょう。

監修

・日本口腔外科学会専門医、日本口腔科学会認定医 見立英史

・日本口腔外科学会専門医、日本口腔科学会認定医 見立英史

専門分野
歯科、口腔外科

経歴
九州大学歯学部卒業。2003年歯科医師免許取得。2009年博士号(歯学)取得。九州大学病院顎口腔外科医員。2011年医療法人仁慈会西原歯科勤務。2013年九州大学病院顎口腔外科助教。2016年福岡歯科大学口腔外科助教。2018年長崎大学病院 顎口腔再生外科

資格
歯科医師免許
日本口腔外科学会専門医
日本口腔科学会認定医

所属学会
日本口腔科学会
日本口腔外科学会
日本口腔腫瘍学会

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