再興感染症とは?

『再興感染症』とは、一時発生が減っていたにもかかわらず、再び流行してきた感染症のことです。

その主な原因は、地球温暖化により、感染症を運ぶ蚊の生息域が北に移動していることです。他にも、人に感染すると高い確率で死に至るウイルスや、変異によって抗生物質が効かなくなった細菌などが出現したこともあげられます。
また、交通手段の発達により、長距離の移動が手軽にできるようになったことも原因の一つといえます。

今後さらに、国際交流が盛んになり、感染のチャンスが増えるかもしれませんので、再興感染症の正しい知識を身につけておきましょう。

ヒトと蚊の共生

蚊は人や家畜に悪影響を与える『衛生害虫』に含まれます。蚊が病原体(ウイルスや原虫)を運び、家畜や人の血を吸うことが、再興感染症の流行に大きく影響します。

通常は花の蜜を吸っていますが、雌の蚊は産卵期に入ると、栄養をとるために血を吸います。この際に、ヒトの体内に蚊の口や唾液に含まれる病原体が入り込みます。
また、ヒトが雌の蚊に刺されるとかゆくなるのは、唾液に対するアレルギー反応です。

次に、蚊から感染する4種類の感染症についてご説明します。

1. 日本脳炎

日本脳炎ウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスです。『西ナイルウイルス』『セントルイス脳炎ウイルス』『マレーシア渓谷脳炎ウイルス』と同じ抗原(体内に侵入してくる異物)をもっています。

日本脳炎の感染と症状

これらのウイルスを運ぶのは、日本の水田などで発生する『コガタアカイエカ』です。
ブタの体内で増えたウイルスをヒトへと移します。

日本脳炎の発症頻度は0.1~1%で、ヒトからヒトへの感染はありませんが、ワクチンによる予防が必要な感染症です。

ウイルスの潜伏期間は、6~16日間といわれています。
脳や脊髄を保護している『髄膜』の炎症や、38℃以上の発熱が主な症状です。小児では下痢に続いて、物事が正しく理解できない、刺激ににぶくなるなどの意識障害や、しびれ・筋力低下を伴う神経障害が現れます。

日本脳炎の死亡率と治療・予防

死亡率は20~40%で、生存者の45~70%に麻痺(まひ)や痙攣(けいれん)などの精神神経学的後遺症が残ります。
後遺症が残るのは、発症の時点ですでにウイルスが脳細胞を破壊しているためです。脳細胞についた傷を治す有効な治療法は今のところなく、高熱と痙攣などの症状を軽くする治療を行います。

また、日本脳炎発症者の大半が、予防接種を受けていないことも分かっています。
日本脳炎には、感染しても発症しないウイルスで作られた『不活化ワクチン』が用いられます。3歳時に3回接種のプランを開始し、9~12歳の期間に1回の追加接種を行います。

その他の予防として、蚊に刺されない工夫が必要です。肌の露出を制限し、流行地への渡航を極力控えるようにしましょう。

2. マラリア

マラリアの感染と症状

マラリアの主な病原体には、『熱帯熱マラリア原虫』『三日熱マラリア原虫』『卵形マラリア原虫』『四日熱マラリア原虫』『サルマラリア原虫』があげられます。
これらの原虫を『ハマダラカ』が運び、ヒトへ感染させます。

マラリア原虫は蚊の体中で、ヒトに感染するために胞子に形を変えます。
その後、蚊の唾液からヒトの血中へ移行し、肝細胞に感染して増殖します。増え続けた原虫は肝細胞を壊し、赤血球へ感染します。その後は、赤血球の破壊と新たな赤血球への再感染を繰り返します。

病原体の潜伏期間は熱帯熱マラリアで12日間、四日熱マラリアで30日間、三日熱マラリアと卵形マラリアで14日間前後です。
症状は熱による顔の赤み、嘔吐、頭痛などの熱発作と、咳、たん、胸痛、呼吸困難などの呼吸器症状や貧血です。また、体温は40℃以上にもなります。

マラリアの治療・予防

通常、マラリアの治療には、予防にも使われる『クロロキン』などを用います。
初期治療の場合は、『プリマキン』という治療薬を利用し、肝細胞に感染したマラリア原虫を攻撃します。

個人でできる予防として、蚊に刺されないよう肌の露出を控えた服を身に着けることが大切です。
また、渡航予定先の感染症情報もよく調べておきましょう。

3. デング熱

デング熱の感染と症状

『デングウイルス』は4種の血清型が知られています。これらのウイルスを運ぶのは、『ネッタイシマカ』や『ヒトスジシマカ』です。

2014年に日本で流行したのが記憶に新しく、全世界では年間約1億人が『デング熱』にかかっています。そのうち約25万人が、デング熱が進行した『デング出血熱』を発症しています。

デングウイルスの潜伏期間は3~7日間です。
デング熱にかかると、発熱に加えて発疹、関節痛、筋肉痛、目の充血、目の奥の痛みが現れます。これらの症状は1週間ほどで良くなりますが、一部はデング出血熱に進行します。

デング出血熱の症状は、デング熱が良くなって平熱に戻ったときに突然現れます。急に出血したり、いったん出血すると止まりにくくなったりします。
この出血は血液中の『血しょう』と呼ばれる成分が、流れ出すことが原因で起こります。循環する血液が不足すると、ショック症状を引き起こします。

デング出血熱の重症度は4段階に分類され、重症度の高いGrade 3、4は『デングショック症候群』と呼ばれます。
Grade 3では心拍数が上がる、脈拍が弱くなる、脈圧が20mmHg以下に下がるなどの循環障害がみられます。Grade 4は脈圧の測定ができないほど重症で、出血や臓器障害を伴います。

デング熱の治療・予防

発熱と痛みに対する治療には、『解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン)』を利用します。デング出血熱にかかった場合は、輸液が必要となります。

予防には蚊に刺されない工夫が必要です。肌を覆う厚手の服を着用しましょう。
また、渡航予定先の感染症情報もよく調べておきましょう。

4. ジカウイルス感染症

ジカウイルスの感染と症状

『ジカウイルス』の中でもヒトへ感染する血清型は1つで、1947年にウガンダのジカ森林のアカゲザルから取り出されました。
媒介するのは『ネッタイシマカ』や『ヒトスジシマカ』のようなヤブカ属で、1968年にナイジェリアでヒトから取り出されて存在が確認されています。

近年では2007年にミクロネシア連邦のヤップ島、2013年にフランス領ポリネシア、2014年にチリのイースター島でも発見されています。2013年から再び流行しており、2015年に南アメリカ大陸、特にブラジルとコロンビアで流行したことは記憶に新しいことと思います。

ジカウイルスの潜伏期間は、3~12日間です。
主症状は38.5℃以下の発熱、発疹、関節痛、筋肉痛、目の充血、目の奥の痛みです。
また、胎児に感染すると『小頭症』という、脳の発達が遅れて頭が異様に小さくなる病気になることが分かっています。これらの症状は発症地によって異なります。
症状は通常4~7日間継続します。

ジカウイルスの治療・予防

発熱と痛みに対しては、解熱鎮痛剤で治療します。

予防には蚊に刺されない工夫が必要です。肌の露出を制限し、厚手の服を着ましょう。
また、渡航前に渡航先の感染症情報をチェックしておきましょう。

おわりに

蚊によって広がる4種類の再興感染症についてご説明しました。

国や地域によって流行している感染症が異なるので、渡航前にしっかりと情報を得ることが大切です。
また、暑いリゾート地などではついつい肌を露出しがちですが、蚊の出る地域では衣類で肌をカバーしたり、虫よけグッズを使用したりしましょう。蚊に刺されないための準備をし、渡航先で健康に過ごしていただければと思います。

監修

・救急医、内科医 増田陽子

・救急医、内科医 増田陽子

専門分野
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

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