はじめに

関節や筋肉をはじめとした身体の損傷や痛みへの処置や予防として、『テーピング』を用いることがあります。

『テーピング』には色々な種類や機能があり、使用する部位や目的に応じて使い分ける必要があります。今回は、『キネシオテーピング』についてその特徴や効果、貼り方について説明します。

キネシオテーピングとは

『キネシオテーピング』とは数あるテーピングの中でも非常に高い伸張性を持つテーピング方法です。
多くのテーピングが、関節を固定したり筋肉の伸び縮みを制御することで痛みのある部位を保護し治癒を促すのに対し、『キネシオテーピング』は伸張性の高いテーピングを皮膚に沿って貼ることを基本の使い方としているので、関節や筋肉の動きを制御することはしません。

キネシオテーピングの正しい貼り方(手首、肩、腰、ひざ)

キネシオテーピングの使用方法は、同じ部位の痛みであっても原因によって変わってきます。痛みがある部位とは異なる部位にキネシオテープを貼ることで痛みが改善することも多々あります。

そのような使用方法は専門家でないと難しいように思われますが、ここでは痛みのある部位別に基本となるキネシオテープの貼り方を説明します。

手首

手首を動かしている筋肉の中で『橈側手根伸筋』と『尺側手根屈筋』、また手首の関節自体をサポートするテーピングです。

1.『橈側手根伸筋』と『尺側手根屈筋』に沿って手首から肘関節までの長さを採寸し、キネシオテープを1本ずつ切ります。さらに、手首1周プラス1センチ分のキネシオテープを切って用意します。
2.手の甲を上に向けた状態で『橈側手根伸筋』に沿って手首の手の甲側、橈側(母指側)から肘の外側に向けて1本、手のひらを上に向けた状態で『尺側手根屈筋』に沿って手首の手掌側、尺側(小指側)から肘の内側に向けて1本キネシオテープを貼ります。
3.手首を中間位(まっすぐな状態)にし、手首の周りを1周させるようにテーピングを巻きます。

肩関節

肩関節を動かす際に大きな力を発揮している『三角筋』をサポートするテーピングです。

1. 上腕の『三角筋』の膨らみが終わる部分の少し下から肩の付け根から首に差し掛かるあたりまでの長さを採寸し、キネシオテープを切ります。
2. 片方の端5㎝ほどを残してキネシオテープの幅半分のところに縦に切り込みを入れます。
3. 腕を下ろした状態で『三角筋』の膨らみが終わる部分の少し下に切り込みを入れていない側のテープを貼り付けます。
4. 腕をできるだけ後ろに引いた状態で、キネシオテープの一端を三角筋の前縁に沿って鎖骨の外側から3分の1のところまで貼ります。
5. 腕を体の前に巻き付けるようにし、もう一端のテープを三角筋の後縁に沿って肩甲骨の外縁まで貼ります。

背骨を支えている『脊柱起立筋』をサポートするテーピングです。

1. 脊柱に沿って仙骨(お尻の割れ目上部あたりにある三角形の骨)の中心から肘の高さあたりまでの長さを採寸し、キネシオテープを切ります。
2. 片方の端5㎝ほどを残してキネシオテープの幅半分のところに縦に切り込みを入れます。
3. 直立した状態で切り込みを入れていない側のテープを仙骨の中心に貼り付けます。
4. できる限り前屈をして切れ込みを入れた側のテープを脊柱の両側にある筋肉の盛り上がりに沿って貼ります。

ひざ

お皿の骨の動きに大きく関与している『大腿四頭筋』をサポートするテーピングです。

1. 直立した状態で骨盤の手で触れる突起(上前腸骨棘)からお皿の骨の下までの長さを採寸し、キネシオテープを切ります。
2. キネシオテープの一端でお皿の下からお皿の上までの長さを採寸し、テープの幅半分のところに縦に切り込みを入れます。
3. 膝を伸ばした状態でベッドに仰向けに寝て、切り込みを入れていない側のテープを腿の付け根に貼ります。
4. 大腿四頭筋に沿ってキネシオテープを貼っていき、テープの切れ込みの端がお皿の上にくるようにします。
5. 膝をできるだけ深く曲げて立て、切りこみを入れた側の2本のテープでお皿の骨を左右から包み、お皿の下に向かうように貼ります。
※ある動画ではお皿から腿の付け根に向けてテープを貼るようになっており諸説ありますが、キネシオテーピング協会推薦の方法は腿の付け根からお皿の下に向けて貼る順番となります。

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キネシオテーピングの効果

キネシオテーピングの効果は大きく分けて4つあります。

1. 痛みを抑制する

人間はお腹でも腰でも痛い場所があると自然にその場所を手で押さえる習慣があります。これは、皮膚や筋肉を刺激することで痛みを紛らわせるという本能的な動作です。キネシオテーピングは手で押さえることに代わってテーピングをすることで痛みを抑制する効果があります。

2. 血液・リンパ液の循環を改善する

肩こりや冷え性、打撲による筋損傷や皮下出血がある場合、皮膚の深層で血液やリンパの流れが滞っていることがあります。患部の循環が悪くなると痛みが増加したり、組織の治癒が遅れるといった悪影響を及ぼします。

キネシオテーピングを皮膚に貼ると、皮膚がテーピングによって少し持ち上げられるため圧迫されていた皮膚の下にスペースができ、血液やリンパの流れがスムーズになります。結果として、損傷した組織の治癒を促進し、筋肉の張りがとれるといった効果が見られます。

3. 筋肉の機能を補い、正しく戻す

キネシオテーピングを筋肉に沿って貼ることで、筋肉の役割を補います。そうすることで、使いすぎて筋肉痛になっている筋肉や、肉離れを起こしている筋肉など弱っている筋肉を回復させます。また、運動前に貼ることで筋肉痛や肉離れなどケガの予防をすることもできます。

4. 関節のずれを補正する

骨には複数の筋肉や靭帯が付着しており、それらの緊張(引っ張り合い)のバランスによって骨の位置が決まってきます。よって、ある関節の筋肉の中で弱っていたり、極度に緊張の高い筋肉があると骨の位置が変化し、関節のずれが生じてきます。

キネシオテーピングを貼ることで筋肉の緊張のバランスを正常化し、関節のずれを補正することができます。結果として関節炎を改善したり、スポーツ競技におけるパフォーマンスの向上につながります。

キネシオテーピングの使用法の注意点

1. テープを引っ張らずに貼る

キネシオテーピングは伸張性が非常に高いため、引っ張ると元の長さの30~40%程度伸張します。
貼った時の感触として引き伸ばして貼った方がしっかりテーピングできたように感じるため、テーピングを引っ張りたくなりますが、本来関節の固定や制御を目的としたテーピングではないため、引っ張りすぎる必要はありません。また、引っ張って貼ると皮膚にかゆみがでてくることがあります。

2. 皮膚や筋肉が最大限伸張された肢位で貼る

テーピングを貼る際に関節の中間部分や筋肉が縮んだ状態で貼ると、貼ったあとに筋肉が伸張される肢位になったときにテーピングの引っ張る力が強くなりすぎてしまいます。筋損傷などで伸張することによる強い痛みがある場合などを除いて、皮膚や筋肉が最大限に伸張された肢位をとってテーピングを貼るようにしてください。

3. 皮膚を引っ張らないようにはがす

テーピングをはがす際、皮膚を保護せずに勢いよくはがすと皮膚を一緒にはがしてしまうことがあります。
皮膚の強さにもよりますが、テーピングをはがす際にははがす部分の皮膚を手で押さえるようにし、テーピングから皮膚をはがしていくようにしてください。

4. 清潔を保つ

キネシオテーピングの特徴として、水に濡らしても粘着性を保つことができる性質があります。また、通気性のよい構造に作られているので、濡れたあとタオルドライなどで乾かせば皮膚が蒸れることもありません。よって、テーピングを貼ったまま入浴しても問題なく、2〜3日は貼ったままにすることができます。

ただし、テーピングをして多量の汗をかくような運動を行う場合は、患部に塩分が残るなどして皮膚の炎症を起こす可能性もありますので、なるべく運動ごとに張り替え、患部の清潔を保てるように注意してください。

おわりに

キネシオテーピングは使い方によって様々な効果があるテーピングであり、習得しやすい使用方法もあります。テーピングの練習を積んだトレーナーや運動指導者でなくても導入しやすいテーピングです。

しかし、痛みの原因や損傷している組織の状態を理解して使用するかどうかによって効果は全く変わるので、是非キネシオテーピングの理論をしっかりと理解して最大限の効果を生み出せるような使い方をしてください。

参考文献・参照
キネシオテーピング療法 プロの技 診たてからのテーピング 加瀬健造、岡本知樹・著 創芸社

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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