PMS(月経前症候群)とは

『PMS(月経前症候群)』とは、Premenstrual Syndromeの略で、月経の10日~14日ほど前から起こる身体症状、精神症状を総称して言います。
月経が始まると症状が改善、消失するのが特徴です。

日本人の約9割に及ぶ女性が、この月経前の期間に何らかの不快を感じることがあると言われています。

PMSの症状

PMSの症状は200種類以上とも言われています。
ここでは、主な症状について身体症状と精神症状に分けてご説明します。

1)身体症状

・乳房の張りや痛み
・下腹部の張り
・頭痛、頭重感
・腰痛
・便秘
・だるさ
・むくみ
・肌荒れ、ニキビ
・眠気
・体重増加など

これらの身体症状の一部は、女性ホルモンのバランスが崩れ、体に水分を溜めやすくなったり、食欲が増進したりすることで起こります。

2)精神症状

・イライラ・怒りっぽくなる
・憂うつになる
・涙もろくなる
・情緒不安定になる
・不安になる
・落ち着かない、集中できない

これらの精神症状は、後述する『セロトニン(幸せホルモン)』という脳内物質の分泌が低下することによって起こるとされています。

PMSの原因

実は、なぜPMSが起こるのか、はっきりした原因はまだ解明されていません。
しかし、考えられる要因として以下のものがあげられます。

1)プロゲステロン(黄体ホルモン)の影響

女性ホルモンには『エストロゲン(卵胞ホルモン)』と『プロゲステロン』の2種類があります。
エストロゲンの主な働きは、①子宮内膜を厚くし、②女性らしい体を作り、③自律神経のバランスを整えることです。
一方、プロゲステロンの主な働きは、①子宮内膜の厚さを維持し、②妊娠中の状態を安定させ、③体内の水分を保持し、④食欲を増進させ、⑤基礎体温を上げることです。

エストロゲンは、月経中から排卵日頃までにおいて、プロゲステロンより多く分泌されます。これに対してプロゲステロンは、排卵日頃から月経にかけて、エストロゲンより多く分泌されます。

PMSが出やすいのは、排卵日頃から月経にかけての時期です。プロゲステロンとエストロゲンのホルモンバランスが崩れることにより、脳内物質や水分代謝に影響を及ぼし、体調が不安定になると言われています。

2)セロトニンの低下

排卵後にエストロゲンの分泌が減ることで、幸せホルモンとも呼ばれる『セロトニン』という脳内物質の分泌量が低下し、ネガティブな気持ちになると言われています。

3)ビタミン・ミネラルの欠乏

私たちの体は、ビタミンやミネラルなどの微量元素を使い、様々な代謝を行なっています。偏った食生活や精神的ストレスなど、様々な原因によって体内の微量元素が不足すると、水分代謝などに影響を及ぼし、PMSの症状が出ると考えられています。

PMSの悪化要因

PMSの症状が出てしまう方でも、その月によって症状の出方に多少違いがあるのではないでしょうか。
ここでは、どのような要因がPMSを悪化させてしまうのかをご説明します。

1)精神的ストレス

仕事や人間関係のストレスによって緊張状態が続くと、PMSの症状は重くなる傾向にあります。

2)嗜好品

タバコ、過度のアルコール、カフェイン、甘い食べ物といった嗜好品を多くとる方は、PMSの症状が重くなる傾向にあります。

3)性格

几帳面、神経質、完璧主義、負けず嫌い、くよくよと悩んでしまうといった性格があると、PMSが出やすい傾向にあります。
以上のような悪化要因に共通しているのは、自律神経やホルモンバランスに負担をかけてしまうということです。

PMSを改善する生活習慣

PMSの症状を軽減させるには、前述した悪化要因を取り除くことが必要です。大切なのは、健康的なライフスタイルを送ることで、自律神経やホルモンバランスを整えることです。
ここでは、食事や運動などのカテゴリーに分け、それぞれのポイントをご説明します。

1) 食事・栄養

・血糖値を上げにくい食べ方をする
後述しますが、血糖値の乱高下はPMSを招き、悪化させるため、血糖値の変動をなるべく穏やかにする食べ方が大切です。
具体的には、1日5食などの小分けにして食べるようにしましょう。その際の間食に適した食品としては、ヨーグルト、ナッツ、牛乳、海藻、小魚などがあります。

・6つの栄養素
PMSの症状を改善する6つの栄養素があります。それはカルシウム、ビタミンD、マグネシウム、ビタミンB6、鉄、食物繊維です。
カルシウムは様々なホルモンに影響を与えており、ビタミンDと合わせて摂ることで吸収が促進されます。マグネシウムやビタミンB6を摂ることにより、肌荒れ、イライラ、不安、うつの改善が期待できます。
また、鉄分が不足して貧血になると、PMSの症状が重くなるので、レバーやほうれん草などの鉄分の多い食材も積極的に摂りましょう。食物繊維は血糖値の上昇や減少を穏やかにし、安定させてくれます。

これらの栄養素を摂るために、普段の食生活に取り入れたいのは、小魚、さんま、カツオ、牛乳、卵、野菜、みそ、豆類、ナッツ類、イモ類、ごぼう、おからなどです。

2) 運動

運動習慣のある人よりもない人の方が、PMSが出やすくなるというデータがあります。運動といっても、散歩やストレッチ、ヨガなどの軽い運動で十分です。
ここでは、その理由をご説明します。

・血行改善・リラックス効果
運動によって筋肉の緊張がほぐれ、血行が改善して体が温まり、リラックス効果も得られます。
また、腸の蠕動(ぜんどう)運動が活発になるため、便秘の予防・改善もできます。

・血糖値の安定効果
血糖値の乱高下は、体に負担となるばかりでなく、低血糖状態になるとイライラ、不安、落ち着かないなどのPMSの精神症状を引き起こします。
運動することで『インスリン(血糖値を下げるホルモン)』の働きを改善し、血糖値を安定させることができます。

・セロトニン増加
散歩やストレッチ、自転車、深呼吸など、規則的な動作が連続する『リズム運動』も、セロトニンの分泌を促します。セロトニンが増加することで、PMSの改善が期待できるため、自分の体力や好みにあったリズム運動を継続しましょう。

3) 睡眠

PMSによる不眠は、「プロゲステロンの増加」と「エストロゲンの減少」によって起こるとされています。

プロゲステロンが増加すると、体温が上がり、体が覚醒モードになってしまいます。
ですので、体が覚醒モードになっているPMSの時期には、寝る前のスマホやテレビ、カフェイン摂取、寝酒などは避けましょう。

また、エストロゲンが減少すると、セロトニンや『メラトニン』という睡眠ホルモンも減ってしまいます。
PMSを改善するには、セロトニンの分泌を促すことが大切です。そのためには、前述したリズム運動のほかに、朝起きたときに日光を30分間ほど浴びるのも効果的です。

4) 嗜好品

・タバコ
タバコを吸うことで血行が悪くなるため、体が冷えPMSが出やすくなります。ですので、できれば禁煙しましょう。

・アルコール
適量のアルコールは血行を促進しリラックス効果も得られます。
しかし、過度のアルコールや寝酒は、睡眠の質を低下させるため、量とタイミングに注意する必要があります。

・甘いもの
甘いものにはたくさんの砂糖が含まれており、過剰摂取は血糖値の乱高下につながってPMSを悪化させます。
甘いものを間食で摂る場合は、1日200kcalを目安にしましょう。

・カフェイン
コーヒーや紅茶などに含まれるカフェインには、脳を興奮させる作用があります。そのため、寝る前の摂取は避け、日中に適量摂るようにしましょう。

5) 温める

子宮や足、その他体の血行不良は、PMSを悪化させるため、体を温めることが大切です。具体的には、くるぶしから3cm以上の長さのある厚手の靴下を履きましょう。ここには、『三陰交』という女性の不調に聴くツボがあります。

子宮の冷えを改善するためには、腹部や腰部にカイロを貼るのも効果的です。
また、全身を温めるのにしっかり湯船につかりましょう。

PMSを改善する薬・サプリメント・漢方

症状がひどかったり、長期に悩まされたりしている場合は、婦人科や専門のクリニックを受診しましょう。
処方された薬やサプリメント、漢方などで、PMSの症状が軽くなるかもしれません。

1) サプリメント

・プラセンタ
『プラセンタ』とは胎盤のことです。市販されているプラセンタのサプリメントは、馬、羊、豚由来の胎盤などがあり、ホルモンバランスや自律神経を整える効果が期待できます。
また、PMSを軽減してくれるだけでなく、月経中の痛みや経血量を減らす効果もあります。
毎日100㎎摂取することを目標にしましょう。

・ガンマ-リノレン酸
『ガンマ-リノレン酸』は、『不飽和脂肪酸』の1つです。
PMSの重い人は、血中のガンマ-リノレン酸の濃度が低いことが分かっています。油分の多いもの、甘いものやコレステロールの多いもの、アルコールの摂りすぎなどによって、ガンマ-リノレン酸の血中濃度が低下します。
食品でガンマ-リノレン酸を多く含むものはないため、サプリメントで補いましょう。

・テアニン
『テアニン』は、お茶に含まれている成分です。
1日1gのテアニンを摂取すると、PMSが軽減したというデータがあります。特に、PMSの精神症状に対して効果が期待できます。

・チェストツリー
『チェストツリー』とは、ホルモンバランスを整える作用のあるハーブです。
プロゲステロンの分泌不足に伴う諸症状を緩和することが分かっています。効果が出るまでに3ヶ月程度かかることもあるため、継続して摂取することが大切です。

2) 薬

・低用量ピル
『低用量ピル』には、月経痛の軽減、経血量の軽減などの作用があります。
さらに、月経前のホルモンバランスの変化が少なくなるため、PMSの症状も軽減します。
医療機関(婦人科など)でのみ入手可能で、処方前に医師の診察を受ける必要があります。いくつか種類があるため、副作用の少ない自分に合った種類のものを服用しましょう。

3) 漢方薬

漢方・東洋医学では、人の体は「気(き)・血(けつ)・水(すい)」という3つの要素で構成されており、互いに影響し合って心身のバランスをとっていると考えられています。
PMSが現れるときは、この3つすべてのバランスが悪い状態にあります。
具体的には、気の異常によって抑うつ症状、情緒不安定、イライラなどが起こり、血の異常によって頭痛、肩こり、腹痛などが起こります。さらに、水の異常によって吐き気、めまい、むくみなども現れます。

漢方薬のメリットは、副作用が少ないこと、1つの薬を飲むことで複数の症状に対して効果があることなので、PMS改善に適していると言えます。
医療機関で処方されるもののほか、ドラックストアなどでも購入可能なものがあります。

おわりに

PMS(月経前症候群)の症状や原因、改善するための生活習慣、薬やサプリメントでの対処についてお伝えしました。

イライラや不安は自分のせいだと抱え込んでいた方も、ホルモンなどの様々な要素が加わって起こっていたことだとご理解いただけたかと思います。

PMSの症状を改善するために生活の中でできることは、たくさんあります。自分の健康状態を確かめながら、自分に合った方法で対処していただければと思います。
また、症状が特にひどい場合は、早めに近くの医療機関を受診しましょう。

監修

・総合診療医 院長 豊田 早苗

・総合診療医 院長 豊田 早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

関連する記事

関連するキーワード

著者