はじめに

QOLとは、Quality Of Lifeの略で、一人一人の生活の質、人生の内容の質を意味する言葉です。いいかえれば、どれだけ自分らしい、そして人間らしい生活が送れているかということでもあります。

QOLを向上させることは、個々人の幸福度を上げることにも繋がります。
歯並びを良くすることがQOLの向上につながる可能性があります。

健康な歯で健康寿命が延びる

健康寿命とは、世界保健機関WHOが提唱した概念で、「日常的に医療や介護に頼ることなく、自らの心身で生命を維持し、自立した生活をおくることができる期間」のことです。平均寿命とは異なります。

歯が多く残っている人や、そして、失われた歯があっても、きちんと入れ歯やブリッジなどを入れている人は、そうでない人と比べて認知症の発症率や転倒を起こす率が低いことがわかっています。

歯科医師会は80歳で20本の歯を残すことを目指す8020運動を提唱しています。8020を達成した人では、そうでない人と比べて、車を運転したり携帯電話を操作したりして、自立した生活をおくっている人の割合が高いという結果もあります。

健康な歯を少しでも多く残し、例え歯を失ったとしてもきちんと治療を受けて噛める状態を維持することは、健康寿命を延ばす要因のひとつといえます。

歯並びが悪いと起こる問題

噛みにくくなる

奥歯の歯並びが悪いと、食べ物を噛むことが難しくなります。自分の好きなものを食べることが出来なくなる、おいしいものを食べることが出来なくなるなどは、歯がしっかりしていないと容易に起こりうることです。

外見に影響が出る

前歯の歯並びが悪いと顔貌など外見に大きく影響してきます。前歯の悪い歯並びとしては、上下の前歯が噛み合ない様な歯並び、上下の前歯が前方へ傾斜した歯並び、前歯が隙間だらけの歯並びなどが挙げられます。

前歯の歯並びを悪くする原因が、奥歯の歯並びにある場合もあります。外見に影響する前歯だけを見るのではなく、奥歯を含めて全体的な歯並びをみなければなりません。なお、八重歯は日本では悪くとらえられることは少ないようですが、世界的に見ればいいイメージではとらえてもらえません。これも悪い歯並びに数えられます。

発音が不明瞭になる

歯並びが悪く、歯と歯の隙間が広い場合、特に上顎の歯に隙間が多いと発音の時に空気が漏れてしまうために言葉が不明瞭になってしまいます。また、舌を前に出す癖があって歯並びが悪いと、たいてい滑舌が悪くなってしまいます。

むし歯や歯周病になりやすい

歯並びが悪いと、歯と歯の間などを歯みがきがしにくくなってしまいます。むし歯や歯周病はストレプトコッカス・ミュータンスやフォルフィロモナス・ジンジバリスなどの菌に代表されるような10種類近い病原菌から起こります

これらの細菌は、歯の表面についたプラークの中に存在しています。プラークとは、歯の表面を爪や爪楊枝などでこすった時についてくる白いカスの様なもののことです。その正体はさまざまな細菌の塊です。むし歯や歯周病を防ぐためには、プラークを取り除く、すなわちプラークコントロールが大切になってきます。プラークコントロールを確実に行なうためには、歯みがきをしっかりしなければなりません。歯並びが悪いとそれが難しくなるので、むし歯や歯周病になるリスクが高くなります。

歯並びの加齢変化

通常気がつくことはまずないのですが、ごくわずかながら歯は常に動いています。数年以上前に歯を正面から写した写真があれば、現在と比べてみてください。変化していることがわかります。

歯周病

歯周病は歯周組織とよばれる歯を支えている組織に起こる炎症性の病気です。
歯周組織とは、歯肉・歯槽骨・歯根膜・セメント質から構成されています。歯肉とは歯ぐきのこと、歯槽骨とは歯を支えている骨のこと、歯根膜とは歯槽骨と繋がっている歯根を取り巻く薄い靭帯の様なもののこと、セメント質とは歯根の表面にある歯根膜と歯根をつなげているもののことです。

歯周病になると歯槽骨が吸収されて減少していきます。歯槽骨の減少に伴い、歯がグラグラと動く様になります。すると、歯並びが少しずつ動いてしまします。

歯ぎしり

歯ぎしりを長期的に続けていると、歯に常に前後左右に動かす力がかかり続けます。その結果、歯並びが全体的に外側に向かって広げられていきます。

奥歯の喪失

奥歯をむし歯や歯周病などの原因により失ったままにしていると、前歯で食べものを噛まなざるを得なくなります。
もともと前歯は、食べ物をすりつぶしたりする様な強い力に耐える様には出来ていません。
前歯を中心に使って食事をする様になると、前歯が外側に向かって傾斜していきます。そして、前歯が外側へ傾いた隙間の多い歯並びになってしまいます。

歯並びの治療法

マルチブラケット法

マルチブラケット法とは、それぞれの歯の表面にブラケットとよばれる金具を装着し、その中心に金属製のワイヤーを通して歯を動かしていく治療法です。

矯正歯科治療をイメージするとこれがまず思い浮かべられるほどオーソドックスな方法です。近年は、歯の裏側にブラケットを装着する方法も開発されています。定期的に歯科医院に通院して順次ワイヤーを交換、もしくは調整を受け、歯を移動させ歯並びを整えていきます。現時点では最も適応範囲の広い矯正治療法です。

マウスピース法

マウスピースを使って歯を移動させていく矯正治療法です。食事のとき以外24時間マウスピースを装着し続けなければなりません。そのマウスピースは、2週間ほどの間隔で定期的に新しいものに交換して歯を動かしていきます。

この方法では、マルチブラケット法のような違和感もなく目立ちにくいという利点がある一方、適応範囲はマルチブラケット法ほど広くなく、症例によっては使えないという欠点があります。

最近ではコンピュータ上で歯の移動をシミュレーションして、自動的にマウスピースを作る方法も開発されています。この方法では、将来の分までまとめて患者さんに手渡すことが可能になるので、通院の回数も少なく、忙しい人も手軽に受けることが出来ます。

MTM(Minor Tooth Movement)法

MTM法とは、歯並びの部分的矯正治療法です。一般的な矯正歯科治療が口全体の歯並びを治すのに対し、MTM法では数本単位、場合によっては1本だけといった少数の歯だけを動かします。歯周病治療で噛み合わせによって歯周病が進みやすい状況を改善したいときや、正中離開とよばれる前歯の隙間を閉じたいだけのときに行なわれます。

おわりに

QOLの向上させる上で、健康寿命という概念があります。健康寿命をのばすことは、必然的にQOLを向上させます。歯の数が健康寿命に関連していることが指摘されています。高齢になってもより多くの歯を残すことが、健康寿命を延ばすのです。

そこで大切なことが歯並びです。歯がきれいに並んでいるということは、食べ物をしっかり噛めるということです。それだけでなく顔貌にも自信がつきます。はっきり話すこともできます。むし歯や歯周病予防にも繋がります。

ところが、歯並びは加齢的に変化していくことが知られています。歯並びが悪化してしまうと、食事もしにくくなります。むし歯や歯周病になりやすくもなります。言葉も不明瞭になり、顔も老けてしまいます。

歯並びをきれいに整えて健康寿命を延ばし、QOLを向上させましょう!

監修

・救急医、内科医 増田陽子

・救急医、内科医 増田陽子

専門分野 
微生物学、救急医療、老人医療

経歴
平成18年 Pittsburg State大学 生物学科微生物学・理学部生化化学 卒業
平成22 年 St. Methew School of Medicine 大学医学部 卒業
平成24年 Larkin Hospital勤務
平成26年 J.N.F Hospital 勤務

資格
日本医師資格
カリブ海医師資格
米国医師資格

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