埼玉医科大学としての取り組み

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ケアクル編集部(以下、ケアクル): 埼玉医科大学の取り組みについて教えてください。

山口先生(以下 山口):埼玉医科大学には、大きく分けて3つ埼玉医科大学病院と、かわごえクリニック、埼玉医科大学総合医療センターがあり、そこで、主に東洋医学・鍼灸の診療・研究・教育を行なっています。また、十数年前から、病院と鍼灸の治療施設との「病鍼」連携、それから診療所と鍼灸の治療施設との「診鍼」連携を地域で行い、鍼灸の啓発普及を推進していきたいということが、我々の大きな目標として、日々邁進しています。

診療について

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ケアクル:埼玉医科大学の鍼灸診療にはどのような患者さんがいらっしゃいますか?

山口:大学病院の方は、だいたい、1日30~40名くらい、また、かわごえクリニックは20-30名ぐらいの患者さんに鍼治療を行なっています。大学内の診療科からの紹介もありますし、かわごえクリニックであれば、近隣の病院や、クリニックの患者さんから紹介がくるということがあります。

ケアクル:先ほど「連携」のお話がありましたが、他の地域の鍼灸院に紹介したりと言った連携体制もあるんですか?

山口:例えば、埼玉医大大学病院の方で治療していた入院患者さんがいたとしますよね。退院をしてしまうと、なかなか埼玉医科大学病院やかわごえクリニックには、地理的に通院が困難であるという場合があり、地域の鍼灸の専門の施設に治療をお願いするというケースもあります。

菊池先生(以下 菊池):病鍼連携や診鍼連携を進めているので、もちろん、医療機関内での連携もありますし、かわごえクリニックの鍼灸部門から、地域の鍼灸施設の方にといった「鍼鍼」の連携もありますね。そう言ったいろんな形で、色々な連携をしております。

*日本頭痛学会シンポジウム

*日本頭痛学会シンポジウム

ケアクル:「連携」で苦労されていること、問題点などはありますか?

菊池:そうですね。いろいろな面があると思うんですけど、施設内の現代医学の治療との連携としては、診療各課の専門医と十分連携するためにはより「医療機関内では保険(療養費)を併用ができない」また、どうゆう患者さんを鍼灸治療と連携したらよいかわからないというのが最大の問題点ですね。ある程度患者さんの方にコストがかかるので、治療を継続するのに、患者さんの費用負担が大変です。

山口:鍼灸界全体としては、私たちは医療機関内で連携に概ね成功して、多くの患者さんをみれていますが、これが地域の鍼灸の専門の治療施設でもできると、鍼灸の受療率が大きく上がります。
西洋医学的な診療も東洋医学的な診療もきちんと受けることができると患者さんにとってかなり満足度の高い医療が提供されるのではないか?と思っています。

その上で1番の最大の課題は、鍼灸師がきちんと現代医学の専門の医師と連携をするための高度な現代医学的な知識と技術の習得が必要になります。そうでないと、きちんとした医療連携ができません。
その辺の資質の向上が望まれているし、それをどんどん達成していかなければ、医療連携は発展しないと思っています。

*医師のための鍼灸体験講座

*医師のための鍼灸体験講座

ケアクル:今後、どのように改善していけると考えていらっしゃいますか?

山口:業団として日本鍼灸師会、全日本鍼灸マッサージ師会、学会では全日本鍼灸学会がありますので、日本において、医療連携を発展させるために、鍼灸師の認定制度・専門制度を確立することが必要だと考えています。現代医学の専門家がみて、「この鍼灸の治療施設、この鍼灸師の先生はこういう専門性があるんだな」っていうことがわかるようなものを作っていくということが1つあります。 そして、個々に、地域でそれぞれ医師と鍼灸師が、例えば医師会と鍼灸師会を通じて、懇意になってしっかり連携していくような、スタイルが構築できればと考えています。その中で、鍼灸師の資質というのはやはり問われてくるので、その辺のスキルアップは必要かなと思っています。

研究について

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ケアクル:研究にも力を入れているとのことですが、どのような研究を進められているんですか?

山口:研究は、「伝統医療である鍼灸を科学的に裏付けていこう」ということで、大学内の専門の診療科あるいは、専門医と連携をしながら、基本的に研究を推進し、鍼灸医療の科学化に従事しています。
多くの研究を様々な学会等に報告しておりますが、日々の臨床の中で、やはりこれは鍼が非常によく効いているなといった実感があるんです。そこで、「それはなぜだろう」「その機序はなんなんだろうか」という疑問を持ち、科学的に解明していくことを試みています。

例えば、鍼の刺激が筋肉の血流にどういうような影響を及ぼしているのかなどの基礎的な研究もありますし、特定の疾患疾患についても研究しています。
代表的なものを挙げますと、埼玉医科大学の脳神経内科と共同で頭痛の研究をしております。
頭痛の患者さんに鍼をして自律神経の機能がどう変化するか、また、頭痛の患者さんは首や肩の緊張が強いことが多いのですが、鍼刺激前後の変化を筋電図でみたり、血行循環でみたり、皮膚の温度でみたりといった研究を進めてきました。

最近では、高磁場のMRI(3テスラMRI)を使って、造影剤というものを使わずに、脳の血流を評価できるようになりました。そのため、鍼を刺している間の脳の血流の状態などを見れることが可能になり、脳の循環、脳の血の巡りを測定し新しい視点で研究をしております。

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ケアクル:菊池先生も同様な研究をされているんですか?

菊池:そうですね。山口先生が統括している中で、頭痛と腰痛、今は、パーキンソン病の便秘の研究し論文化を進めています。こうした論文を国際的な学会や専門医学会に発表するということで、医学の世界に認知してもらうことが、ここの役割・使命と思っています。

ケアクル:様々な研究をされているようですが、何人ぐらいの体制で進めているんですか?

山口:スタッフは、今、常勤というか専任の鍼灸に関する職員は5名で、非常勤が7名、有資格者で研修できているスタッフが14名ぐらいいます。まず、職員は、研究のテーマがそれぞれありまして、その研究について、例えば、「頭痛」、「癌」、「顔面神経麻痺」、「耳鼻科の領域で突発性難聴」など専門性を持っての研究をしています。研修生はすぐに研究とはなかなかいかないので、まず、臨床の基本ですね。患者さんをしっかりみて、そして治療計画をたて、治療をしていくということを学んでいきます。

教育について

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ケアクル:研修生といえば、埼玉医科大学東洋医学科では、教育にも力を入れていらっしゃいますが、それについても教えてください。

山口:鍼灸師の資質の向上が我々の最大の目標と考え、研修生には鍼灸だけの研修ではなくて、現代医学の専門家のレクチャーも含めて実施しています。

菊池:現在、卒後研修制度では100名を超える程度の研修修了者が出ています。そして、研修後のフォローアップとして、継続して教育を受けてもらうために、専門医のレクチャーをオンラインで発信し、常に最新の知識をアップデートしてもらうといったことも実施しています。

一方では、学外の教育としては、埼玉鍼灸学会を主宰したり、埼玉県鍼灸師会の学術講習会を埼玉鍼灸学会の講習会を合わせて年4回ほど企画・実施しています。そして、埼玉医科大学としての研究とか臨床に関しては、山口先生だったり、たまに私だったりが講演を行なっています。

かわごえクリニック

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ケアクル:埼玉医科大学の施設の一つにかわごえクリニックがありますが、こちらのクリニックはどう言った目的で作られたでのしょうか?

山口:平成16年(2004年)に、埼玉医科大学かわごえクリニックがスタートしました。大規模な大学病院とは違って、かわごえクリニックの特徴は、アクセスの非常に良いところに立地し、地域により専門性の高い医療を提供しています。
さらに、専門性の高い、医療従事者を育成していこうというのが目的となっています。
より専門性の高い医療とは、例えば、診療科は、機能性消化管外来や、ペインクリニックがあったり、スポーツ整形外科やそれに付随したリハビリテーションがあったり、あるいは、骨粗しょう症外来、糖尿病の専門外来、大人向けの精神神経科、また子供のこころクリニックという小児の精神神経科があったりと、非常に専門性の高い診療を実施しているんですね。
そして、専門性の高い診療をということで、まさに、東洋医学治療(特に鍼灸治療)も専門性の高い治療だということを、当初から思っておりましたので、ここが開設のための色々な企画が始まった時から、理事長に話をして、鍼灸も専門性の高い医療であることを説明し、組み入れていただいた。というのが、経緯であります。

ケアクル:美容外科もあるんですね?

菊池:美容外科もありますね。手術もありますけど、元々はシミとかほくろの治療をしたりと形成外科の専門医の先生方がやっていらっしゃるところです。手術でリフトアップもやります。

山口:美容といえば、うちも美容鍼灸も連携を模索はしているところです。 先ほどからも言っているように、より専門性の高い、そして医療連携というのを基本にしておりますので、美容の領域でもただ美容の鍼灸をやるっていうのではなくて、専門医と連携しながら、やはり、医療としてのより質の高い鍼灸医療を提供すれば、それが患者さんにとって満足度の高い医療を提供する。そうしたことで、安心して安全な鍼灸治療を提供できるのではないかと思っています。

菊池:病気や疾患がある患者さんだけではなく、美容の方をターゲットとすると、未病治じゃないですけど健康な人も来院するので、鍼灸の可能性が広がりますね。

*後編に続く

プロフィール

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山口 智(やまぐち さとる)
埼玉医科大学東洋医学部 講師
東京有明医療大学 客員教授 明治薬科大学非常勤講師

略歴:埼玉医科大学 大学院 専攻生課程修了、医学博士。

(財)東洋医学技術研修センター研究員、筑波大学非常勤講師を経て埼玉医科大学第二内科東洋医 学部門 現職に至る。

主な学会活動
全日本鍼灸学会副会長
日本東洋医学系物理療法学会副会長
日本頭痛学会
日本神経治療学会などの評議委員
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菊池 友和(きくち ともかず)

埼玉医科大学 東洋医学科
同 総合医療センター 麻酔科ペインクリニック および 同 かわごえクリニック 東洋医学外来 
同 国際医療センター支持医療科 埼玉精神神経センター 脳神経内科 (兼担)
東京医療専門学校 鍼灸マッサージ教員養成科 特別講師

埼玉県立盲学校 理療科 卒業 埼玉医科大学 東洋医学科 研修生 非常勤職員経て現在に至る。

主な学会活動
全日本鍼灸学会(編集委員 教育研修委員) 
現代医療鍼灸臨床研究会(評議委員) 
日本頭痛学会会員日本自律神経学会会員など

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