*前編では、山口先生と菊池先生が働く埼玉医科大学における鍼灸での取り組みについて詳しくお聞きしました。後編では、今後の豊富や鍼灸業界を元気にする取り組みについて聞かせていただきます。

今後の抱負

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ケアクル:今後、こういう方向に向かっていきたいといった目標はありますか?

菊池先生(以下 菊池):研究の面でいえば、医学会で論文を発表していく一つの目標としては、ガイドラインに掲載され、そしてできれば推奨されたいです。「〇〇診療ガイドライン」で鍼が推奨され、その引用論文に我々の研究が引用されたら、すごく幸せですね。結果として、一般の鍼灸の先生方に貢献できるし、それは、いいものを国民が選択できるようになるという意味でも、国民にも還元出来ますからね。

例えば、山口先生が頭痛の研究をし、専門医と連携する。こんなに頭痛に効くという結果を出し、それを論文化することによって脳神経内科の専門医の先生がわれわれ鍼灸師に治療を依頼するわけです。それはもう、埼玉医科大学及びその関連施設やその論文に興味を持っていただいた専門医の先生の診療行動が変わったということです。もし鍼灸治療がガイドラインに載るということは、全国の先生方の診療行動が変わってくるわけです。

また、教育に関しては、今、研修生の制度がモデルケースとして、専門医からレクチャーを受け、高度な知識があって連携が取れるような鍼灸師を育てる。そして、そういった鍼灸師がしっかり患者さんを見れるというのが認知されるモデルケースがあれば、それはまた一般化されていく思っています。

*医師のための鍼灸体験講座

*医師のための鍼灸体験講座

ケアクル:山口先生はどうお考えですか?

山口智先生(以下 山口):診療に関しては、医療連携を発展させて、より多くの患者さんの多くの疾患についての鍼灸治療を実施し、患者さんに満足度の高い医療を提供したいですね。 

また、専門医との共同研究で分かったことは、現代西洋医学的な治療と根本的に違うところとして、いわゆる鍼の治療というのが、生体の正常化作用というところに寄与するってことが判ったんですね。例えば、血圧の高い人は下げるし、低い人は上げる。便秘の人も下痢の人も、同じようなツボを使って同じように便通を整える効果が出てくるといった感じです。

病気や症状を持っている人に鍼灸の刺激をした時の脳循環とか自律神経の機能と、健康な人に鍼灸をした時のそれと比べると、病気を持っている人、あるいは症状の重い人ほど、より顕著に反応するというのが判ってきたんです。健康な人はそんなに動かない。いわゆる、受ける側の状態によって違うということなんですね。これはまさに東洋医学で昔から言われているその自然治癒力というのをしっかりと高めるということが、現代医学的な新しい手法を使って見ていくとよりそれが鮮明に出てきたんですね。

まさに伝統的な治療からこれからの新しい時代の医療として、鍼灸は大きく発展していくことは、間違いがないということを我々は確信しているんですね。ですから、そういった研究をさらに推進し、啓発普及して行きたいということを考えています。
*国際頭痛学会

*国際頭痛学会



最後に、鍼灸師の教育だけではなくて、これは私のライフワークの一つなんですが、医学部での鍼灸の教育、つまり医師の卒前教育の中に鍼灸をしっかり組み入れたいと考えています。

色々なその研究助成を受けながら、埼玉県医師会と共同で全国の医師を中心に鍼灸に対するあるいは鍼灸師に対する意識調査をしています。そのなかで、医師は、やはり鍼灸のことや鍼灸師のことはほとんどわからない。だから、医師の方はなかなか連携が組みにくいということが明らかになった。ただし、関心は持っているということは判ったんですね。

現在の医学部の卒前教育の中に漢方は今ほとんど入っているのですけれども、鍼灸はほとんど入っていないっていうのが現状なんです。ですから、医師が現場の臨床に出た時、「あ、鍼灸治療っていうのはこういうところに効果があるんだ。鍼灸師とは十分連携が組めそうだな。」ということを医学部の卒前教育の中に鍼灸を組み入れたいということで、今、そういう活動も展開しています。

鍼灸業界を元気にする取り組み

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ケアクル:患者さんや鍼灸師に向けて鍼灸イベントを発信していくというお話をお聞きしましたが、どんなイベントか教えてください。

菊池:今後は、YouToubeLiveを使って、コロナの影響も含めて不安とかうつとかに困っている人向けにライブトークを企画しています。ひとつは、「食べてうつぬけ」の著者である奥平智之先生と山口先生の座談会という形式で、栄養と鍼灸のコラボレーションで、栄養に関して奥平先生、鍼灸に関しては山口先生、そして、僕が司会をやらせてもらいます。ゲストで、有明医療大学の「うつ」を専門にされている松浦先生をお呼びしていて、そして、米倉先生に質問をしてもらう形式です。

また、鍼灸師向けは、8月5日の水曜日には、明治鍼灸医療大学の福田文彦先生と福島県立医科大学 漢方外来 鈴木雅雄先生のチャリティーライブトークを実施しました。
(YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=9c6W1ClCVTA)

山口:5月くらいに、コロナの影響でみんな落ち込んだ状況でしたので、明るい話題を提供して、コロナを逆手にとってなんかないの?って話になりました。「With コロナ」で鍼灸業界を元気付けたいっていうのもあって、コロナの時でも鍼灸の必要性をしっかり伝えたいですね。

菊池:イベントの中では、セルフケア的なところも少し山口先生に触れてもらい、それでも辛い人は鍼灸院へ行って欲しいですね。業界全体が盛り上がんないとやっぱり良くないかなと思うんですよね。

最後に

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ケアクル:多くの鍼灸師がこうした先生方の取り組みを知り、そして学び、自信をもって鍼灸治療を患者さんに提供していく必要がありますね。

山口:その通り。啓発普及が遅れているんですよね。

ケアクル:鍼灸をやっていていいのか?と、不安がってしまっている若手も多いので、鍼灸そのものをもっと自信をもってやっていいんだと伝えていきたいですね。

山口:時代というか、コロナというだけでなく、医療が今変わってきていますので、実はチャンスなんですよね。僕は、鍼灸は伝統医療ではなくって、新しい時代の医療だと自負していますよ。

ケアクル:すばらしいですね。そういうお言葉を先生方からいただけると勇気づけられます。

山口:ただ、そのためにやはり医療連携っていうのが、必要不可欠なんです。鍼灸師の資質を上げていかないと。せっかくいい治療法をもっているのに、それが生かせません。

ケアクル:やはり「連携」が鍵になってくるってことですね。

山口:そうです。

ケアクル:今回は色々と貴重なお話ありがとうございました。

<あとがき>
ケアクル:最先端の研究や鍼灸業界だけでなく医師への教育にも精力的に行われているといった、明るい鍼灸業界の未来が感じられワクワクするようなお話をお聞きすることができました。多くの鍼灸師にとっても知らなかったことも多々あるのではないかと思います。今後も、先生方の活躍を引き続き取り上げて、皆様にお伝えできればと思います。(ケアクル: 横澤)

プロフィール

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山口 智(やまぐち さとる)
埼玉医科大学東洋医学部 講師
東京有明医療大学 客員教授 明治薬科大学非常勤講師

略歴:埼玉医科大学 大学院 専攻生課程修了、医学博士。

(財)東洋医学技術研修センター研究員、筑波大学非常勤講師を経て埼玉医科大学第二内科東洋医 学部門 現職に至る。

主な学会活動
全日本鍼灸学会副会長
日本東洋医学系物理療法学会副会長
日本頭痛学会
日本神経治療学会などの評議委員
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菊池 友和(きくち ともかず)

埼玉医科大学 東洋医学科
同 総合医療センター 麻酔科ペインクリニック および 同 かわごえクリニック 東洋医学外来 
同 国際医療センター支持医療科 埼玉精神神経センター 脳神経内科 (兼担)
東京医療専門学校 鍼灸マッサージ教員養成科 特別講師

埼玉県立盲学校 理療科 卒業 埼玉医科大学 東洋医学科 研修生 非常勤職員経て現在に至る。

主な学会活動
全日本鍼灸学会(編集委員 教育研修委員) 
現代医療鍼灸臨床研究会(評議委員) 
日本頭痛学会会員日本自律神経学会会員など

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