脳卒中とは

脳卒中とは、脳の血管に異常をきたすことによって脳細胞が壊死し、全身に障害をきたす疾患です。
脳卒中には、脳の血管が詰まって脳細胞への血流が阻害される『脳梗塞』と、脳の血管が破れて出血する『頭蓋内出血』があります。
梗塞または出血を起こした部位や程度によって症状や後遺症は異なりますが、意識障害や手足の麻痺、言語・嚥下障害、認知症など、全身に重篤な障害をきたします。
また、迅速な処置が行われなかった場合には、命にかかわることもあります。

脳卒中のリハビリの期間(急性期・回復期・維持期)

脳卒中後は多くの場合、何かしらの後遺症が残るため、日本では入院中の早期から専門家によるリハビリテーション(以下、リハビリ)を受けて機能回復を図ることが一般的です。
通常、発症後2~4週間を急性期、発症後3~6か月を回復期、それ以降を維持期としてリハビリを行っていきます。
サイト名「脳梗塞リハビリセンター」
それぞれの期間に応じてリハビリの目的や目標とする状態が異なるため、患者がどの期間に属しているかを明確にし、段階的に機能回復を図っていくことが必要です。

脳卒中のリハビリの方法

脳卒中のリハビリの方法はそれぞれの方の後遺症の種類や程度によって異なりますが、ここでは主なリハビリの内容をご紹介します。

急性期

急性期のリハビリの目的は早期に離床し、廃用症候群を予防することです。
分かりやすく言い換えると、寝たきりの状態から早く脱し、動かないことによる筋力低下や、その他の機能低下を防ぐということです。

脳卒中になると、身体の麻痺や筋緊張の異常が起こり、起き上がることや自分の力で姿勢を保持することが難しくなる方がおられます。
理学療法士などリハビリの専門職のサポートの下、それらの動作練習や姿勢調整の練習を行います。最初は起き上がりを練習し、座位が保持できるようになった後は立ち上がり、そして歩行というようにステップアップしていきます。
また、脳卒中では障害された場所によって、食べ物を噛んだり飲み込んだりすること(嚥下)、言葉を発することに障害が起こることもあります。「食」は人間の生活にとって、なくてはならないものであり、生命を維持するための基本なので、咀嚼や嚥下を中心とした食事機能のリハビリが行われます。
また、発語などのコミュニケーション機能の回復を目指し、言語聴覚士によるリハビリも開始されます。

回復期

回復期になると全身状態がある程度安定してきますが、脳卒中で障害された機能はまだまだ回復しきっておらず、発展途上の段階であることが多いです。回復期を過ぎて維持期になると、機能の回復も徐々に停滞してくることが多いので、回復期にしっかりとリハビリを行い、機能回復を図ることが重要です。
急性期病棟と回復期病棟がどちらも備わっている大きい病院では回復期病棟へ転棟し、急性期のみを対象としている病院の場合には、回復期のリハビリを専門としているリハビリ病院への転院を行うことが一般的です。

回復期のリハビリでは、理学療法士によって平地の歩行から階段昇降、入浴動作やトイレ動作など、自宅に帰っても困らないように移動動作や日常生活動作の訓練を行っていきます。
また、食事動作や書字、物をつかむといったような、手先の巧緻性(こうちせい)を要する作業も日常的には必要ですが、特に麻痺を起こしているのが利き手側である場合などは、それらの動作にもかなりのダメージを受けます。これらの細かい作業については、作業療法士と一緒に、麻痺側の手の動作練習を行います。
しかし、麻痺の程度や回復をみて場合によっては、利き手を交換することも検討しながらリハビリを進めていきます。
嚥下や言葉を発することについても引き続き、言語聴覚士によるリハビリを行います。

維持期

維持期は脳卒中から半年以上が経過し、身体機能の回復が一定のレベルに達したとされる時期です。
現在は入院期間などの制限もあるため、多くの方は退院して自宅に戻るか、高齢者で介護が必要な場合には、介護施設に転院することになります。
維持期以降のリハビリは、リハビリのできる病院への通院または、自宅や介護施設で自主的なリハビリを行うことがメインになります。
せっかく回復した機能も、退院後にリハビリをやめてしまうと、関節拘縮が進んだり、筋力低下により日常生活動作が難しくなったりしてしまいます。
そのため、ストレッチを行ったり、移動機能を維持するための筋力トレーニングや動作練習を行ったりする必要があります。

脳卒中のリハビリの費用

脳卒中を発症すると、基本的に急性期から回復期までは病院で過ごすことになります。治療の一環としてリハビリが組み込まれているので、特別リハビリのみの費用として算出される方は少ないかもしれませんが、参考までにおおよその目安をご紹介します。
病院内で入院中に行われるリハビリは診察料と同じように保険点数が決まっており、1点10円として換算されます。脳卒中に関わる脳血管リハビリテーションの中にもいくつか種類があり、少しずつ点数は異なりますが、20分を1単位として200点前後とされています。
著者:藤本修平

回復期にかかる費用

回復期病棟ではだいたい1日に1人当たり6~9単位のリハビリを行うので、1,200~1,800点程度、12,000~18,000円程度リハビリ料にかかることになります。
著者:藤本修平
しかし、ほとんどの方は国民健康保険などに加入しており、負担額が1割~3割とされていますので、上に述べた場合であれば、1割負担の方で1日1,200~1,800円、3割負担の方で3,600~5,400円となります。
これに加えて入院中は食事代やベッド代がかかるので、長期にわたるとつらい出費になってしまうかもしれません。

維持期にかかる費用

維持期に入って比較的状態も落ち着き、自宅での生活が送れるようになると、リハビリにかかる費用は格段に軽減します。それでも、自宅で行うリハビリだけでは不安があり、体力維持や麻痺の改善、拘縮の予防を目的として外来でリハビリを行うことのできる病院に続けて通院される方も多くおられます。
その場合は、リハビリのみの保険点数を通院した回数分、支払うことになります。
医療保険が適用されますが、現在は適用されるリハビリ期間が疾患ごとに定められています。脳卒中の場合、180日(約半年)を過ぎると大幅に制限をされることになります。
著者:藤本修平
医療保険内でのリハビリでは不十分であると感じられる方は、保険適応外の施設でリハビリを続ける場合もあり、かかる費用も増えてきます。

家族のサポートの仕方

脳卒中後は、最も身近にいる家族の存在が大切になります。
後遺症の程度、本人の性格や家族との関係により、適したサポートの仕方は変わってきます。
ここでは、脳卒中になった方のご家族のサポートの仕方について知っておいていただきたいことをご説明します。

身体のケア

家族の方がある日突然脳卒中になると、その後の生活が心配になると思います。
脳の損傷部位によってある程度の予後は予測ができるので、きちんと主治医などから予後を聞いておくのも安心材料の一つかもしれません。
年齢が若い方の場合は、リハビリによって身の回りのことがある程度自立して行えるようになる場合も多いです。しかし、高齢者の場合は、元の筋力や残存機能が低下しているため、移動や入浴、着替えなどの日常動作に介助が必要になる場合もあります。

退院して自宅に復帰する場合は、自分でできること・できないことの選別をしておくと良いでしょう。介助が必要になる場合は、どのような方法が本人や家族にとってやりやすいのかなどを退院前にしっかり把握しておくと退院後もスムーズかと思います。
本人の残存機能を維持するためには、できることはしっかりと行ってもらうことも必要ですので、そのことも頭に入れておいていただければと思います。

心のケア

脳卒中は、本人にとっても、ご家族にとっても予期せぬことで、事態を受け入れるまでに時間を要することも多々あります。
本人が現状を受け入れ、前向きにリハビリに取り組む気持ちになるまで、時間がかかることもあります。また、その後もうまく回復しないことがあったりすると、ネガティブな気持ちになることもあると思います。
そんなときにご家族が温かく見守ってくださると、不安な気持ちが軽減し、とても心強いのではないでしょうか。是非とも近くで見守りながら、声をかけていただきたいと思います。
それでも、家族ゆえに甘えの気持ちや、やりきれない気持ちを心ない言葉でぶつけてしまうこともあります。声のかけ方や接し方で困ったときは、病院内にも相談に乗れるスタッフがいますので、ご家族だけで悩まずに気軽に相談してみるとよいかと思います。

介護する家族のケア

入院中は病院のスタッフが交代で治療や介護を行うことになりますが、自宅に戻ると介護に携わる方が、配偶者や子どもなどに変わります。一人きりでも、複数であっても、負担が大きく、それぞれの生活に支障をきたす場合があります。
介護する方もされる方も、障害がある状態での自宅生活に徐々に慣れ、色々なことがスムーズに行えるようになる場合もありますが、基本的に介助の必要な生活はずっと続きます。
よって、肉体的もしくは精神的に家族への負担が大きすぎると、介護の継続が困難になります。

そのような場合は、家族内だけでどうにかしようと考えず、訪問介護や短期的な施設入所などを上手く利用し、継続可能な体勢を準備するようにしましょう。
介護する側のご家族の心と身体が健康でなければ、ご本人にもよい環境にならないということを頭においていただき、決して無理はしないようにしてください。

おわりに

今回は、脳卒中のリハビリについて、その方法や期間、費用やご家族のサポートについてご説明しました。
後遺症が残ることが多く、ご家族の一生にかかわる疾患になりますが、以前に比べるとリハビリの体制や退院後のサポート体制も随分と整ってきています。
今回の内容を参考にしていただき、ご本人にとってもご家族にとってもより生活しやすい状況を作っていただければと思います。

監修

・総合診療医 院長 豊田早苗

専門分野 
総合診療医

経歴
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年 医師国家試験取得。
2006年とよだクリニック開業。
2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。

資格
医師免許

所属学会:総合診療医学会、認知症予防学会

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