【開業トーク】小泉 直照先生(音声はこちら)

この番組は、これから開業を考えている鍼灸師の先生にとって、ちょっとやる気が出たり、背中をおせたり、参考になるであろうリアルな情報を鍼灸院経営者があれやこれやの実体験を交えてゆるくお届けするトーク番組です。ラジオ感覚でゆるく視聴いただけると幸いです。
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開業トークスタート はじめに 

 (52621)

全員
開業トークやってまいりました!本日はよろしくお願いします。

司会
それでは、今夜も開業トーク始まりました。皆様に楽しんでいただければ幸いです。
スピーカーはこのお二人です。
美容鍼のサロンであるHariFa鍼灸院を全国8店舗展開している御領原先生です。全国50店舗に向けての展開を進めていらっしゃいます。今日もよろしくお願いします。

電子カルテサービス”リピクル”を展開するケアクルと、ループル治療院を東京とオランダで3店舗展開する岩井先生がお話ししてくださいます。

御領原先生(以下、御領原)、岩井先生(以下、岩井)
よろしくお願いします!

鍼灸師の道、臨床と教育の両立

司会
小泉先生、ありがとうございます。それでは、鍼灸師としての経歴についてお話しいただけますか?

小泉 直照先生(以下、小泉)
はい、ありがとうございます。私は鍼灸師として働いていますが、その前に柔道整復師として臨床の経験を積んでから鍼灸学校に入学しました。最初は、鍼灸接骨院を開業するつもりでしたが、学外での研修会などで鍼灸の魅力に目覚めたので、鍼灸専門院を開業しました。学生時代にお世話になっていた先生から、一流の鍼灸師は臨床だけでなく、教育や研究も重要だと言われました。

教育は免許が必要であり、学校で働くためには免許が必要です。
そこで、教員免許を取得することを考え、教員免許取得のために専門学校へ行きました。
そのまま鍼灸専門学校で専任教員として働き、6年間の経験を積みました。
しかし、開業もしたいという思いがありましたが、専門学校の教員は主に授業がメインの仕事であり、臨床の時間を確保するのは難しいのです。
私はもっと臨床を行いたいと考え、鍼灸専門の鍼灸院を開業することにしました。

また、私は以前勤務していた病院に戻り、病院で働きながら鍼灸専門学校の非常勤講師も務めました。
最初は開業・非常勤講師・病院勤務の3足の草鞋としてスタートしたのです。
私が教員を務めていた当時、特定のコンセプトがありました。教員として働いていたため、教え子たちの中には開業を考えていたり、進路を相談したい人がいることがあります。

学校によって異なりますが、経営に関する授業があまり行われないことが多いですよね。
そこで、私が教えていた学校の授業内容や、私自身が卒業した学校の授業内容を比較しました。
基本的には経営についての話はなかったため、広告や宣伝を全く行わずに開業するとどうなるのか?
これを学生に教えることにしたのです。

挑戦と不安を乗り越えて、開業者の興味深いストーリー

岩井
これはなかなか興味深いストーリーですね。

小泉
そうなんです。そして1年間は何もしませんでした。鍼灸院の場所だけ提供して広告も一切せず、今でもオフラインのチラシなどは一度も配布していません。もう1つの店舗では最近初めて1回だけ配布してみましたが、私のメインでやっている場所では一度も行っていません。オフラインの広告は試したことがありません。
開業してからは6年目になります。

御領原
本当に変態的ですよね。褒めている意味で。自ら実験する姿勢が素晴らしいと思います。学生たちにとってもフィードバックになっているでしょうし、素晴らしい教育者だと思います。

小泉
いやいや、本当に思ってますか?(笑)

御領原
実際にやってみてどうだったのか、聞きたいですよね。

岩井
不安とかなかったのですか?

小泉
いやいや、本当に、岩井先生がおっしゃった通り、不安は当然あります。でも実際に何もしていないから、不安がどうなるのか、来客がないのは当たり前だと思っていました。何もしていないからです。

岩井
普通は開業するときには不安で余裕がありませんよね。成り立たなかった場合には閉店しなければならない可能性もあるわけですが、それがなかったんですね。

小泉
継続的な収入源として、病院や専門学校での給料で家族を養っていました。稼働がないと単純に赤字になるだけです。家賃や光熱費など、常識的な経費はありますが、それらは私の給料ではないです。
そこで融資を利用しました。

岩井
でも、ある意味で赤字を出せる余裕があったんですよね。最初に融資を受けたのですね。

小泉
はい、融資を受けました。私は計画書の作成が得意だったのです。もともと法律家になりたかったのですが、その道に進むことができなかったのです。ただ、計画書の作成は得意で、金融公庫の担当者に一生懸命プレゼンをして、喋り倒したら申請を通してもらえることができました。そこで1年分の固定費、つまり家賃などのお金を融資してもらったので、1年間はすぐに潰れるということがないような状況を作っていました。

岩井
なるほど、それで最初の赤字が出ても、すぐには潰れない状況を作ったんですね。

ヨガマットでの初治療:記念すべき第1号の喜びと挑戦

小泉
鍼灸師として最低ラインの技術を持っていると思っていたので、1年間頑張れば売り上げが立つだろうと考えていました。実際に開業すると、トラブルがつきもので、例えば開業日にはベッドの配達が遅れて、なんとベットなしで開業することになりました。
様々なものが次々に届くのですが、不具合もたくさん起こります。

とりあえずヨガマットだけ準備し、初日に来た患者さんがいた場合はヨガマットで治療することにしました。

開業初日は、通りすがりの人が初めての患者さんとなり、寝違いの症状が軽くなったため喜んでもらえました。治療したのは1人でしたが、とても良い日でした。

そこから2〜3週間は誰も来ず、、、。

岩井
それは、怖いですね。

小泉
私は1年間は赤字でも大丈夫な準備をしていましたし、精神的にも余裕を持っていました。しかし、実際に開業すると、自分でも気が狂いそうになるほど厳しい状況になりました。

岩井
ターニングポイントは何かありましたか?

小泉
開業して翌月くらいから、少しずつ患者さんが来るようにはなりました。
週に1回程度のペースで治療を行う患者さんが少しずつ現れた感じです。
しかし、固定費はまだまだ賄えず、売り上げは散々な結果という状況で、それによって私の心は折れ、精神的に追い詰められてしまいました。

今でも心が折れた瞬間を覚えています。

開業の苦悩:暇すぎる日々と心の葛藤、一言の重み

岩井
開業時に暇なときは何をしていましたか?という質問が恒例でありますが笑
先生はどうされていましたか?

小泉
そうですね。
開業前にいろんな勉強会に参加していて、ある先生から「患者さんが来ない時はとりあえず院内の掃除をしろ」とアドバイスを受けたり、さらにある有名な先生からは「患者さんが来ない時はカルテを見なさい」と言われたのでそうしてました。

御領原
それは確かにいいアドバイスですね。

小泉
でも、今にして思えば良いことではあると思うのですが、実際には掃除も毎日やっていると、すごく狭い院の中でやっているのですぐ終わってしまいます。またエアコンのフィルターを掃除するにしても3日連続になってしまったり、カルテを見るにしても、そもそもカルテがなかったり。
どんなに真面目に見ても15分で終わってしまいます。

岩井
カルテそのものがないのでそうですよね。汗

小泉
そうなんです。資料作成などと違って、学生指導はその場ですぐにできるわけではありません。
あまりに暇すぎて、自分の治療に誰もいない時にですが、人生で初めて仕事中に寝てしまいました。
ドアが開いた音に気が付いて目が覚めたら風が通っただけで、、、
その瞬間にこれはダメだと思いました。今ならお金を返せるのでやめようかと考えたのです。
心が折れてしまいそうでした。
家族に土下座して、教員の仕事を探しながら借金を返すつもりでした。

でも、そんな時にちょうど5人の患者さんが来院してくれていたのですが。
その中のひとりの患者さんから「先生、辞めないでね」と言われたんです。

岩井
そういう支持を受けると励みになりますね。

小泉: はい、でもそれで勇気が出たというよりは、患者さんにそう思われるのも嫌だなと思っていたんです。恥ずかしいですよね。
それで、以前他の場で話したことがあるんですが、もしも誰か困っている方がいたらご紹介いただけませんか?というお願いをするようにしたのです。

岩井
なるほど、その一言の重要性ですね!

紹介の力:患者さんの口コミが鍼灸院の転機となる

小泉
そうです!それで、その時に来てくれていた4人の患者さん全員に伝えることにしました。
そしたら、その人たち全員があまりにも可哀想に見えたのかみんなが紹介してくれまして、、、

岩井
すごい、本当にいい話ですね。

小泉
本当にありがたくて、今でもとても感謝してます。
本当に、全員がそれぞれに3名以上の紹介をしてくれたんです。
それで一気に患者さんが増えまして、それまで月間来院患者数が12月まで5名だったのが、年明けの1月時点で20数名に増えていました。これで、固定費は一応クリアできるようになったんです。
自分の給料は出ないけど、固定費は出るようになったので、これなら辞めなくて済むなと思えるようになりました。
そこから更に、治療を気に入ってもらえた方には、もしお知り合いでお困りの方いたら、ぜひ紹介をしてください!というお願いをすることをひたすら繰り返しましたね。
春には、自分の給料がちょっと出るぐらいになりました。

岩井
やっぱりそういうことなんですね。

小泉
現在は、患者さん全員に言ってるわけではないですが、でもやっぱり紹介は一つの大切な要素ですよね。
例えば、仲が良い知り合いで症状が良くなった人があそこの鍼灸院いいよって言ってくれたら患者さんとの信頼関係にも繋がるし、自信にもなります。とても嬉しいですよね。
これが本当に大きなターニングポイントでしたね。

岩井
『紹介してください』の一言って本当に重要ですよね。
でもはじめはなかなか言えない時期もあるものですよね。
御領原先生のところではそんな時にどんな取り組みをされていますか?

御領原
そうですね、今はそういう仕組み自体を作って紹介カードなどもあるのでそれをやってます。
あとは何回目に来院された方に、このタイミングで声がけして渡すようにしようという取り組みもあります。

岩井:
なるほど。

御領原
それを徹底することで毎月目標として何人の紹介を生み出すか?というのを設定しています。
最初は私もそのような苦しい時期もあったので、あっみんな同じなんだなと感じました。

岩井
御領原先生でも、そうだったのですね。 

御領原:
もちろん、そうです。今はウェブ集客やチラシなど様々な方法がありますが、やはり紹介から患者さんは、初めから信頼して来てくれるので治療もうまくいきやすいですよね。

岩井:
間違いないですね。

御領原:
媒体別や流入経路別のリピート率などを算出してもやはり圧倒的に紹介で来た患者さんの数字は良いですよね。
ただし、それに頼っているだけではいけません。
やっぱり意図的に、施術者と患者さんの関わり方や人としての関わり方を強化したいと思っています。
それを形として仕組み化することでより強固な関係性を築けると思います。

岩井:
なるほど。ありがとおうございます。
小泉先生の話は、現在のイメージからは想像できないような内容でしたね。

小泉先生の差別化戦略:カテゴリー内での違いをアピールする

岩井
差別化について小泉先生の中で、特に意識して取り組まれていることがあれば教えていただけますか。

小泉
私は差別化についていろんなところで話を聞く機会はあるのですが、実際そんなに他の鍼灸院との差別化はしていないかもしれません。
自分の鍼灸院が仙台市の繁華街の近くにあるため、他の鍼灸院や接骨院、整体院との差別化が問われることはあります。
差別化と言ってもなかなか難しいですよね。
あえて行っているとすれば、違いを否定するわけではありませんが、例えば整体やリラクゼーションとの違いを意識しているかもしれません。

岩井
それはどのような経験から意識されてきたのですか?

小泉
私は病院での勤務経験しかないため、その経験は特殊と言えるかもしれません。
マーケティングも非常に重要だと思うのですが、例えば働いていた病院と比較するともうその歴史とストーリーが違いすぎることに気がつきます。
例えば、4世代で来ている患者さんがいたりもしますし、そうなるともう比較しようがないと思いました。

岩井
たしかに重要な要素ですよね。

小泉:
ですので、患者さんの声を聞いていても、みんなが鍼灸院の差別化を理解できるわけでもないと思います。
そうなるとやはりカテゴリーの中での違いをアピールできるようにしていくことが重要と考えるようになりました。

なぜ鍼なのか?―患者さんを納得させる説明の重要性

岩井
差別化についてもう少し詳しく聞かせて下さい。
違いというのはどのように意識されていますか?

小泉
まず、鍼灸は鍼灸院でしか受けられないという基本的なことが大切だと思います。
もちろん、病院で受けられたりする鍼灸もありますが、やはり鍼を受けるなら鍼灸院になるわけです。
そして現実問題として、やはり一般の方が整体やマッサージと、鍼灸を比べて選ぶっていうのはとても難しいことだと思います。
あとは鍼灸が得意なことはこういうことですよ、と丁寧に説明するようにしています。
患者さんの辛さや不安をどうやって消していくかということも併せて説明していきます。

他の整体やマッサージとは異なる部分があるけれど、それは他の施術を否定するものではありません。ただ、一般の人が鍼灸のことを理解するのは難しいかもしれません。

岩井
ありがとうございます。開業の話をしていると、メニュー作りとか値段決めとかそういう話が多くなってしまいがちですが、やはりどうあるべきかという部分が非常に大切ですよね。
改めて小泉先生の想いをもっと聞きたくなりました。

御領原
差別化の部分でちょっとだけ話させてもらえればと思うのですが、小泉先生がおっしゃるように、やはり鍼の効果を想像したり実感したりってやはり難しいもので、実際に来院しないとわからない部分がとても多いです。
当院に来られる方も8割から9割の方が初めて鍼による施術を受けに来られます。
なので、いかに鍼灸というハードルを下げることができるかが非常に重要と考えています。
また店舗展開をしていると、スタッフも増えていくので、どうしても技術力の担保や差別化が難しくなってくる側面があります。
来院してくれる方々を納得させて幸せにするだけの、一定水準の技術力は担保しつつ、また来たいと思ってもらえるような工夫や努力も意識しています。
例えば内装や空間なども大切で、少しでも特別感が味わえるような空間演出を心がけています。
匂いや音、細かい備品類まで気を使うことでまた来たいなって思える存在をイメージして店舗設計しています。

岩井
空間はとても重要ですよね。あとはなぜ鍼なのか?
しっかり説明しないと納得してもらえないですよね。それをどう説明していくか?というのは鍼灸院にとって本来は技術よりも前に、とても大切な勝負どころな気もします。

小泉
鍼灸の効果は即効性が出るものもあれば、そうでないものも当然あるわけです。
美容鍼でもシワたるみで悩んでおられる方も多いですが、パッと消して一生そのままもありえないのです。
ただ乾燥していた肌に潤いが出たり、すぐに効果を実感できるものもあるのでちゃんと伝わるかが大事です。
知識や技術も大切ですが、やはりこの伝える力が鍼灸施術にとって非常に重要なので、鍛えていく必要があると思っています。
あとは病院勤務が長かったので、治療計画をもって説明して同意を得た上で施術することを心がけています。

岩井
そうですね、やはり丁寧な説明とコミュニケーションが重要ですね。鍼灸師としての提案力やコミュニケーション能力が、治療の上でも開業の上でも大きな役割を果たすと感じました。

岩井
そうですよね、やっぱ開業してるいっぱい通ってほしいとか、腕の良いところを見せなくてはとか、早く治さなくてはとか、色々考えてしまうことも多いと思います。
しかしながら、ちゃんと評価して自信を持ってすぐに治るものとすぐに治らないものもしっかり説明して伝える必要がありますね。

小泉
おっしゃる通りですね。
例えばですが、一回で治ります。というようなことばかり言い続けていたら病院では全く信用されません。
お手伝いできる部分とそうでない部分をちゃんと仕分けしてゴール設定をする。
あとは鍼灸をやることによってどんなメリットがあるか、この伝え方で違いが出せると差別化もうまくいくと思います。

岩井
とても考えさせられます。やはり丁寧な説明とコミュニケーションが重要ですね。鍼灸師としての提案力やコミュニケーション能力が、治療の上でも開業の上でも大きな役割を果たすと感じました。

先生本日は貴重なお話をありがとうございました。

プロフィール

 (52634)

小泉 直照(こいずみ なおてる)

小泉直照

合同会社yushin 代表
はり処 愈鍼 院長
東北大学大学院 漢方・統合医療学共同研究講座 技術補佐員
YCT 主宰
臨床実技研究会 会長

instagram
https://www.instagram.com/yushin_sendai/?hl=ja

twitter
https://twitter.com/NAOTERU15
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 (52638)

御領原 圭佑 (ごりょうはら けいすけ)

AMG代表コンサルタント
鍼灸師(得意分野は美容鍼灸)
合同会社KG代表
株式会社G.G代表
一般社団法人ACAJ代表理事

HariFa鍼灸院
https://harifa-ca.jp

AMG
https://amgc.jp

一般社団法人ACAJ
https://acaj.jp/

instagram
https://instagram.com/keisuke_0702?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA==

twitter
https://twitter.com/keisuke_goryo
 (52641)

岩井 隆浩 (いわいたかひろ)

鍼灸マッサージ師、柔道整復師
株式会社ケアクル創業者取締役
株式会社Nomadiculture代表取締役
NPO法人芸術家のくすり箱理事

株式会社ケアクル
https://corp.carecle.com

リピクル|電子カルテサービス 
https://ripicle.carecle.com/

麻布十番ループル治療院
http://www.loople.jp
 
芸術家のくすり箱
https://www.artists-care.com

instagram
https://www.instagram.com/takarhythmalism

twitter
https://twitter.com/takahiroiwai119

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